2020/03/10
令和2年2月7日OMC勉強会レポート
今回は、いつも勉強会のファシリテーターをしていただいている井田病院の西先生に、「社会的処方」についての講義をしていただきました。
【「社会的処方」とは】
「社会的処方」とは、医師が処方する薬ではなく、地域のつながりが、ひとを健康にしていく仕組み。1980年頃からイギリスの各地域で始まった取り組みであり、2016年には全国的なネットワークが構築されています。
【「社会的処方」の有益性】
「運動サークルに参加する・しない」「コミュニティに参加する・しない」という4つのグループに分け、「どのような人たちが要介護状態になりにくいか」という統計をとったところ、「運動しているかどうか」よりも、「コミュニティに参加しているかどうか」というグループが寝たきりになりにくいというデータがあがった。
WHOが掲げる健康の定義においても、「健康とは病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして『社会的にも』、すべてが満たされた状態」とある。
【社会的処方の事例】
事例①
元花屋の男性が不眠に悩まされていた。以前は妻の友人のつながりで、社会との関わりがあったが、妻を亡くしてから引きこもるようになり、不眠に悩まされるようになっていた。クリニックに受診し、眠剤を処方してもらっていたが、ある日、花を整備する役割を紹介され、活動してみたところ、元花屋の性に合い定期的に顔を出すようになり、眠剤を増やさずとも不眠が軽減された。
事例②
ある子育て中の女性が鬱になっていた。子育てサークルで話をすることで鬱症状は和らいでいたが、引っ越しをすることになった。移住先でも子育てもサークルに参加したいと思い、市役所に探しに行ってみたところ、市役所で開催しているサークルは人数がいっぱいですと言われてしまう。
立ち寄ってみた、とあるカフェで、マスターにその話をつぶやいてみたところ、「知り合いの高齢者施設のオーナーが何かしてくれるかもよ」、と提案してくれた。
その施設のオーナーが施設の空き部屋を貸してくれ、更には同じような子育て中の人を募集してくれた。また、高齢者施設内に子育てサークルができたことで、施設のバザーを合同で開催されるなど、更に多くの人のつながりがうまれた。
【「社会的処方」の課題】
第一に、社会的処方を評価するエビデンスが確立していないのが現状。
社会的孤立が多いことで死亡率があがるのであれば、「社会的処方がより多く実践されることで、死亡率が下がる」というデータがとれることで、社会的処方が評価されることとなる。
西先生は研究ををすすめていくため、「社会的処方研究所」を現在全国に4箇所立ち上げ、データを集めて医療機関へ還元していく活動をされているとのこと。
また、社会的つながりをつくる「リンクワーカー」をどのよう見つけてるなげるか。
「リンクワーカー」は誰でもなりうる。教育者であったり、スポーツマンであったり、食堂のおばちゃんであったり。先の事例で言うと、花の整備を紹介しれくれた人や、カフェのオーナーがリンクワーカーとなる。
リンクワーカーを名乗らずとも、リンクワーカーのような取り組みをされている人々は既に全国にいるわけだが、社会的処方を普及させるために、リンクワーカーの発掘や育成が課題となる。
【参考文献の紹介】
『社会的処方 孤立という病を地域のつながりで治す方法』
ー 西 智弘 編著(学芸出版社)
西先生が社会的処方について、イギリスで学び、日本でのフィールドワークで学び、そして日本に広めていくための「社会的処方研究所」を立ち上げたストーリーが書かれています。
その他、社会的処方に関連する本を、写真にてご紹介させていただきました。
興味のある方は是非お手にとってみてください。