2019/06/19
令和1年6月7日OMC勉強会レポート
今回は、薬樹薬局の訪問薬剤師の坪内さんから事例を提示してもらいました。
■事例の概要
60代男性。4年前から前立腺がんのホルモン療法を続けていた。腰痛を訴えるようになり、骨盤と肝臓に転移が見つかる。医師は終末期(予後6カ月)であることを本人・家族に伝え、緩和ケアの実施を説明、在宅診療が入るようになった(ケアマネージャー、ヘルパー、訪問看護師はまだ必要ないとのことで入っていなかった)。
薬剤は、家族が近所の薬局へ取りに行っていた。
本人が周囲から「麻薬は怖い。中毒になる」と言われていたため、抵抗を示し、ロキソプロフェン錠とボルタレン座薬で痛みを抑えていただが、次第に激痛に襲われるようになり、レスキュー薬としてオピオイド(オキノーム)の使用に移行した。薬局から「痛くなる前に予め飲んでください」と言われており、本人は午後痛くなることが多かったので、午前中に飲むようにしていた。
ところがある日の午後、外出中に急激な痛みに襲われた経験から、再度麻薬に抵抗を示すようになり、レスキュー薬を使用しなくなった。その後痛みで朦朧として、自宅の階段から転倒し打撲し入院。「家族に迷惑がかかる。死んでもいい」と発言。
〈追加情報〉
・奥様、同居している娘、息子家族とも関係は良好
・本人は男気があり、できるだけ自分で何でもやりたい、家族に迷惑をかけたくないと考えていた
・家族は「お父さんがそう思うなら、それが一番いいよね」という考え。医療用麻薬に対する考えも同様だった
・医師も薬局も正しい説明はしていたと思うが、その情報が正確に本人にまで届いておらず、正確な理解に至っていなかった
上記事例に対して、どのようにマネジメントをすれば良いかをグループで話し合いました。
■グループワーク後の意見
・介護認定を受けていなかったので、受ける方向で進めばよかったのではないか
・「麻薬」ではなく「医療用麻薬」としてきちんと説明できていたのか
・麻薬は怖いという偏見を取り除くために、医師が緩和ケアの説明をした段階で、医師の説明の補足をしたり介護認定を進めたりする、医師と患者の間を埋める人がいたほうがよかった
・残された時間について、どれくらい議論がなされたのか疑問が残る。そこが議論されれば、もう少し早い段階から、医療用麻薬で痛みをコントロールすることを受け入れられたのではないだろうか
・疼痛コントロールをするにあたり、薬剤師や看護師の意見も含めることができたら、よりよい状況になったのではないか
■実際は……
入院後、直接医師や看護師、薬剤師から本人が医療用麻薬の説明を受け理解され、「怖い激痛から開放されるなら使おう」と、オキシコンチンを使い始める。副作用に対しても薬でコントロールした。痛みのコントロールがきちんとされるようになり、本人の医療用麻薬への偏見が少しずつなくなっていった。
死んでもいいと言っていたが、きちんと使用すれば楽になることを実感。介護認定も受け、要介護3と認定された。心のゆとりが出てきて「浅草に、雪駄を履いて行きたい」と言うようになった。奥さんもそれは叶えてあげたいと思っていた。そこで「痛み日記」を活用し、本人や家族以外に、訪問看護師や介護士みんなで痛みがある時間帯を記入(情報のリレー)。どの時間帯ならゆとりを持って行けるかを探り、浅草行きを実現し亡くなられた。
坪内さんは「本人から浅草に行きたいという希望が出たのは、情報のリレーがうまくいき、痛みや眠気が軽減できたからだと思います。でも、もう少し早い段階から情報のリレーを始めていれば、もっと素敵な最期を迎えられたのではないかと思います。薬剤師は、情報をまとめて薬剤のコンサルティングをするという役割を担っています。今回のように、終末期のがん患者さんへの医療用麻薬の使い方は非常に難しいので、最初からコンサルティングの役割としてお声がけいただければ、もう少し薬剤師として協力できるかなと思います。」と話されていました。
<西先生のまとめ>
薬剤師の役割は非常に大きい。緩和ケアは、医師が1人でできるものではない。今回の事例の場合は、ケアマネージャーや訪問看護、訪問介護が入れば入院にならずに済んだかもしれない。医療関係者みんなで協力しながら取り組んでいくのが、緩和ケアのスタンダードだと思う。これからの緩和ケアは、医師が上に立って指示するのではなく、それぞれの職種が役割を分担して、お互いのプロフェッショナリズムを寄せ集めて、フラットな関係で取り組んでいくもの。そんな関係性を、川崎でつくっていけたらと思う。
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次回のOMC勉強会は、令和1年7月5日「高層マンション在住患者さんへの在宅支援の課題」をテーマに事例検討会を予定しています。ぜひ奮ってご参加ください。